第五話 いそぎんちゃく

5.背後


 ホロホロホロホロ……

 あざ笑うかのように、『いそぎんちゃく』達が一斉に鳴き始めた。

 「目、合わせんなぁ! 見たらとっつかれっどぉ!」 老漁師が叫ぶ。

 「見ちゃだめなのか!?」

 「目あわせんなって……あ、見ちゃった」

 赤白青のフランス国旗風の海水パンツの若者−−フラパンは、10m程先の『いそぎんちゃく』と目を

合わせてしまった。 何かが頭を走り抜ける。

 『ねぇ……おいで……』

 「わっ、口を聞いたぞ!?」

 フラパンの驚きの声に、他の若者は訝しげな顔をする。

 「何? 奴ら変な音を立てているだけだぞ」

 「聞いたろう! 今、『おいで』って言ったぞ」

 「おめぇ魅入られただな……」 老漁師の宣言に、皆がフラパンから離れる。

 「み、魅入られた? ど、どうすりゃいいんだ、爺さん……そうか、目を逸らすんだな!」

 「うんにゃ。 目を逸らしちゃなんねぇ」

 「ええっ!?」

 「奴ら動けねぇ。 動けねぇから見られてる間はそこにいんだぁ。 だども、見てねぇと姿消して、いつの間

にか後さぁ回るだぁ」

 若者達は、老漁師の言葉を頭の中で反芻する。

 「えっと、目を合わせると魅入られる。 でも目を離すと後ろに回られる……顔以外をみてればいいのか?」

 「そうだ、奴らの背後に回ろう!」

 「おおそうか!!」


 若者達と老漁師は、『いそぎんちゃく』達の足の辺りを睨み付けつつ、距離をとって回り込もうとした。 しかし、

数箇所に分散している『いそぎんちゃく』全てに目配りするのは難しかった。

 「あっ! 向こうにいた奴がいなくなった」

 一人が、一際離れた岩場を指差し、皆がそちらを注視した。

 「おっ!本当に消えた!」

 「逃げたんじゃないのか?」

 途端に背後から、『いそぎんちゃく』の鳴き声があがる。

 ホロホロホロ……

 ギョッとして振り向くと、波打ち際に『いそぎんちゃく』が座り、秘所を見せつけてニタニタ笑っている。

 「い、いつの間に」

 「馬鹿野郎!皆でそっちさ見たら、岩場さ残ってる奴らが消えちまうだ!」

 老漁師が背を向けた格好で怒鳴る。 彼は若者達と協力して岩場にいる『いそぎんちゃく』を睨みつけて

いたのだが、彼以外は波打ち際に視線を向けてしまった為、全ての『いそぎんちゃく』を視界に入れなくなった。

 「ちっきしょ、何匹か消えやがった」

 悪態をついている間に事態が悪化する。 

 ホロホロホロ……

 砂浜の先、彼らが進もうとしていた辺りに、忽然と『いそぎんちゃく』が出現していた。

 「ほ、本当にわいて出てくる……」

 「う、後ろにも。 囲まれた……」

 彼らは砂浜の上で進退窮まり、円陣を組んで身を寄せ合う。


 「こら、フラパン! お前が呼んでるんだろう!」

 「ち、違う……奴が俺を呼んでるんだ……」

 フラパンの耳には、『いそぎんちゃく』の粘りつくような誘いの声が聞こえていた。

 『どこいくの?……おいでよ……気持ちいいから……私から離れられなくなるから……』

 「呼ぶな! 俺を呼ぶなょ!」

 フラパンが頭を抱えてうずくまり、皆の注意がそちらに集まった。 途端に数匹の『いそぎんちゃく』が消える。

 ホロホロホロ……

 「ひっ!?」

 すぐ側で『いそぎんちゃく』の声がし、フラパンは弾かれたように立ち上がった。 その背に『いそぎんちゃく』の

足先が線を引く。 

 「ひぃぃぃぃ!?」

 「で、でたぁ!」

 なんと、一匹の『いそぎんちゃく』が円陣の真ん中に出現し、そいつがフラパンの背中につま先触れてきたのだ。

 「た、助けてくれぇ!!」

 老漁師と若者達は一団となって走り出し、一番『いそぎんちゃく』の数が少ない辺りを駆け抜ける。

 ホロホロホロ……

 『いそぎんちゃく』の鳴き声と共に、うねる金髪が若者達に絡みついて来た。

 「うわっぁ!」

 ウエットスーツを来ていた若者達と老漁師は、金髪の攻撃を払いのけて辛くも囲みを突破した。 しかし海水パンツ

だけの若者達は、素肌で『いそぎんちゃく』の金髪を受け止めてしまう。

 「ぐぅ!?」

 足が鉛のように重くなり、よろめいて倒れる若者達。 仰向けに倒れ、マグロの様にころがった若者の海水パンツの

裾から、無数の細い蛇の様な金髪がざわざわと忍び込んでくる。

 「やめて……ひぃ……ひぃ」

 『つれない事、言わないで……ねぇ……』
 髪の毛は彼らの男根に優しく巻きつき、流れるように這い回る。 男根は、その持ち主の意思に関係なく、髪の毛の

中でゆっくりと膨れていった。


 砂浜で捕まったフラパンは、仰向けにされて海水パンツを剥ぎ取られていた。

 ”やめてくれぇ……”

 縮こまった男根を、形だけは美しい女の足が軽く踏みつけ、ぐりぐりと前後させている。

 ”ひきっ……”

 女の足に踏まれる感触に、フラパンは異様な高ぶりを覚えた。 土踏まずの下で、睾丸がコロコロ擦れ合っている

ような気がする。

 『くふっ……これがいいんでしょう……ほらぁ』

 ヌチャ……ァァァァ……

 ”いっ?”
 股間に異様な粘り気を感じ、フラパンは股間に目を向けた。 いつの間にか、女と自分の足が『松葉崩し』の形に

絡み合っている。 股間に感じた粘り気は、女の秘所に陰嚢が擦り付けられた結果だった。

 『くふっ……ほら……ほら……ほぉーら……』

 女が腰を揺すり、妖しい粘りを涎の様に流す秘所で、彼の陰嚢を咥えしゃぶっている。

 ”うっ……ううっ……”

 女の滑りと生暖かい体温が、じんわりと染み込んでくる様だ。 ネットリとした異様な気色よさに陰嚢の中身が溶けて

いくような気がする。

 ”と、蕩けそう……”

 『そうよ……私に抱かれていると……気持ちよーく……蕩けていくの……ほーら』

 ヌッチュ、ヌッチュ……

 『いそぎんちゃく』の秘所は、吸盤の様にフラパンのまたぐらに吸い付き、異様な快感を男根に染み込ませてくる。 

彼女の言うとおり、股間が気持ちよく蕩けていく様だ。

 ”いい……気持ちいい……たまらねぇ……”

 『さぁ……私に抱かれなさい……そこだけじゃないわ。 足の先から頭のてっぺんまで、髪の毛一本残さず……とろとろ

に蕩かして、私のものにしてあげる』

 女の恐ろしい言葉は、フラパンの心に無上の喜びを引き起こした。

 ”抱いてくれ……俺を……お前の中に……”

 フラパンは体を起こし、横たわる女の秘所に自分のものを宛がい、勢いよく突き入れる。

 ”ぐっ!?……ぁぁぁぁぁぁぁ……”

 うねうね動くミミズのようなものが亀頭に巻きつき、ザラザラした何かが、快感神経の一つ一つを丁寧に弾く。 張り詰

める男根と縮み上がる陰嚢。 そして、熱い快感が背筋を駆け上がる。

 ヒクヒクヒク……ド……ドローン……

 ”ふにゃぁぁ……気持ちいい……”

 絶頂感の次に、蕩ける感触が体を走り抜けた。 精を吐き出す代わりに、股間の中が熱く蕩けて行くのが判った。

 『うふふ……気持ちよかったでしょう?……もっと……もっと……蕩けかしてあげる……』

 『いそぎんちゃく』は、フラパンの両手両足を絡みつかせ、うねる金髪で体を包み込んで愛撫する。 蠢く金髪の愛撫の

感触が皮膚に刷り込まれ、体の中にじわじわと染み込んでくるようだ。

 ”たまんねぇ……”

 フラパンは、無意識のうちに『いそぎんちゃく』の胸に、自分の胸を合わせ、小さく円を描くように体を揺すった。 

『いそぎんちゃく』の乳首が彼の胸に吸い付き、胸板に素敵な感触を残す。

 『あん……胸……感じる……』

 『いそぎんちゃく』がフラパンの下で悶えるように体を揺すり、フラパンの胸に吸い付いた乳房が、ちゅうちゅう音を立てて、

フラパンの乳首を吸う。

 『あん……ああ……ああっ……』

 『いそぎんちゃく』の胸が脈打ち、熱い粘りを吐き出し、二人の胸を濡らした。

 ”ぬぐっ!?……うっ……ううっ……”

 『いそぎんちゃく』の胸から吹きだした物がフラパンの乳首から中に流れ込んだ、そんな感じがした。 フラパンは、

胸の中にもやもやした生暖かいものが詰まっていくのを感じた。

 ”……うううっ……うぼぅ……”

 熱い絶頂間と共に、フラパンは口から粘っこい液体を吐き出す。 彼もアメパンの様に、白い粘体に変わっていくのだ。

 ”いい……ぎぼぢいい……溶ける……どどげる……”

 ヒクヒクと痙攣しながら、フラパンの体は『いそぎんちゃく』の上で溶けていく。 そして溶けたフラパンは、『いそぎんちゃく』の

上を流れ、その秘所に吸い込まれていく。

 ”いい……いい……”

 『いそぎんちゃく』の下腹を中から震わせ、フラパンは歓喜の呻きをあげ続ける。

 同様の運命が、『いそぎんちゃく』に捕まったほかの若者達にも待っていた。

 やがて、『いそぎんちゃく』達は忽然と姿を消した、数枚の海水パンツを残して。

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